京都 二十三屋のつげ櫛
(写真下が最初に購入した太めの歯の櫛。後に購入した上の櫛よりも色が濃くなっている。横のサイズは3寸5分でおよそ11㎝)
「ツゲのクシですいたら髪がツヤツヤになるのよ」
そういいながら私の髪をくしけずってくれた祖母の言葉がつげ櫛を意識するきっかけとなった。
幼少期の頃だったから、「ツゲのくし」がどのようなものか分からず、100均のお店で記憶に近い形状をしていた桃の木の櫛を母にねだって買ってもらったりした。
本当のつげ櫛と再会したのは大学生になったころだ。
大学生になって手にしたドミニック・ローホーの著作『小さいものと豊かに暮らす~天使のように軽やかに~』の中で京都の「二十三や」の櫛が紹介されていた。
「ああ、これだ。これが本物のつげ櫛なんだ」
天啓だった。
勢いのままに京都へ行きポーチへすっぽりとおさまるサイズの櫛を購入した。
「時々櫛に油をつけて、使い終わった歯ブラシでいいので、ブラッシングして櫛の歯の根元に向かって汚れを落としてあげてください」
「使う油は椿油ですか?」
「いえいえ、髪につける油なら何でもいいんです。ベビーオイルでもなんでも」
2本目の櫛は2019年に購入した。
髪をバッサリ切ったので今度は細歯の櫛を選んだ。
(次に来るときは前に買った方の櫛ケースを新調しよう)
そう思ってお店を後にした。
そして、「次」は永遠に来なかった。
それは私と同じくつげ櫛ファンの友人からの連絡だった。
「そういえばね、ニ十三やさん、お店閉まったらしいよ」
「大切にしないとだめよ」という友人の言葉に「そうだね」と返すしかなかった。
その日、どうしようもなくたまらない気持ちになり、櫛をそっと取り出した。
「時々櫛に油をつけて、使い終わった歯ブラシでいいので、ブラッシングして櫛の歯の根元に向かって汚れを落としてあげてください」
その日の手入れはことさらゆっくりと、いたわるように行った。
お店の人の声がおぼろげながらに響いてきたような気がした。